心理分析と統計処理入門
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統計学というコトバを耳にすると、文化系の学生の方は「また数学的学問か」といった苦手意識や嫌悪感情が頭をよぎるのではないでしょうか。しかしながら、この心理分析や統計的手法は教育場面においては必須の知識と言えます。


例えば、教育場面において自己の教育的指導の妥当性を調べてみたいとか、自己の教育的指導を学会とかで是非発表したいという時には、自己の主観的な研究報告では他者を納得させることは不可能です。そこには誰もが納得できる客観的なデータが必要になるのです。その際、強力な右腕となるスキルがこの統計的手法なのです。


また、日常の教育場面においても心理分析や統計的手法に関する知識が身についていないと学習指導や生徒指導の面にさまざまなマイナスの対応が現れます。各年度の始めに一般的に実施されている集団式知能検査、結果は知能偏差値(ISS)という表示で出てきますが、この偏差値という意味を的確に理解できている先生があまりいらっしゃらないのは本当に残念です。


この結果は日常の学習指導や生徒指導に大いに活用できるデータなのに、何故か倉庫の奥でホコリにまみれているのが実状です。


その結果は自明のこと、「何度説明してもあの生徒は理解してくれない」とボヤキ続ける教師、それは心理学的データの理解・活用による個々の生徒の個性に応じた適切な教育的対応がなされていないからです。


以上のように、心理分析や統計的手法は教育という営みにおいては必要不可欠な知識であるといえます。では教育場面においてはどのような場面でどのような有効性を発揮するのでしょうか、以下箇条的にまとめてみます。



@ 教師の主観的な生徒理解を適切で客観的な理解に変容させる。
A 生徒の将来の行動予測の一助となる情報を入手できる。
B 個々の生徒の個性に応じた望ましい学習指導や生徒指導が可能になる。
C 教師の指導目標の達成度評価の質を高める。
D 自己教育性の高い有能な教師に変容することができる。




上記の5つの点が指摘できます。望ましい教育には教師自身の豊かな経験も非常に大切な要因です。しかし、その経験だけに頼っていては真の教師としての成長は望めません。そこにはどうしても客観的で科学的な視点が必要になるのです。現在の教育に欠けている側面はこういった部分も大きなウエイトを占めるのではないでしょうか。



さて、ここで教育の現場で起こり得る物語でおもしろ・おかしく心理・統計的手法について考えてみましょう。
ある地域の小学校同士で起こった滑稽なお話です。その地域には「最高小学校」と「一番小学校」という2つの小学校が昔からお互いの学業成績で競い合っていました。ある時国語の一斉テストが6年生児童に実施され、互いの小学校の校長は競争相手の小学校の成績のことばかり気になっていました。テストが終わり最高小学校の校長が早速、一番小学校の校長に電話をかけてきました。


「あー、一番小学校の校長先生ですか、私です。ご無沙汰ですな。さーて、今度の国語のテストの成績、うちは平均得点が68.3点、標準偏差は8.5だったんですよ。一番小学校はどうでした?」そして一番小学校の校長は答えました。「うちは平均得点は66.81点、標準偏差は5.5でした」と悔しそうに応答しました。電話でその結果を知った最高小学校の校長は、職員会議を開いて、「先生方、毎日、本当にご苦労さまです。先生方の指導のお陰で今度の国語の一斉テスト、一番小学校に勝ちました。ガハハ、、、」と顔を紅潮させて喜んだそうです。そして数日後、地域の教育委員会で校長同士が顔を合わせる機会があり、とんだ口ゲンカが始まったのです。


一番小学校の校長が「たった平均得点が1.5位の差で最高小学校の成績が優っているなんて言えませんよ、たかが1.5点じゃないですか、本当にバカバカしいにも程があるいい加減になさい」と反論したのです。それに対して最高小学校の校長は、「何をおっしゃる、その1.5点の差がうちとおたくの指導能力の差じゃ、、ガハハ」と言って「負け惜しみは見苦しい」と延々と口ゲンカが続いたそうです。



どうでしょうか果たしてこの醜い争い、いつまで続くのでしょうか。でもおもしろい話です。心理・統計的手法を理解していればこの話のおもしろさを理解できます。
要は、2人の校長どちらも標準偏差という概念が全く分かってないというところです。 仮に、最高小学校も一番小学校も6年生児童が200名近くいたとしましょう。平均得点では最高小学校の方が高いので、いかにも最高小学校の指導能力が優っていると考えてしまいます。それは平均値のマジックと呼ばれています。どうしても平均値の方に目がいってしまうのです。ここで問題解決の鍵となるのが標準偏差という概念です。


標準偏差(SD; standard deviation)というのは、この場合でいえば、いわば平均値からの個々の児童の得点のズレを平均したものです。ですから、最高小学校の場合は平均得点は68.1点、標準偏差8.5という意味は、平均から+8.5、77.8点から、平均から−8.5,59.8点まで得点が分布していることになります。一方、一番小学校の場合は平均得点66.81点、標準偏差5.5ということですから得点の分布は72.31点から61.31までということになります。


ここで気づくことは、得点の分布からすると最高小学校の場合はできる子とできない子の差が激しい。一方、一番小学校の場合はできる子とできない子の差が小さいと考えられるのです。従って、得点の分布からいえば一番小学校の方が得点の幅が小さいので、まんべんなく学習指導が行われていると仮定できるのですが、実際に最高小学校と一番小学校との間には有意な差があるのでしょうか。


これは、平均値の差の検定(t検定)という統計処理で明らかになります。平均値の差の検定とは、この物語の場合でいうと、最高小学校と一番小学校の平均得点が等しいという仮説をもとに統計的処理を行い、仮説を検証する手続きをいいます。その結果はどうなったのでしょう。結果は5%以下の危険率で最高小学校のほうが得点のズレは大きいものの一番小学校より成績は優っているという結果になりました。危険率とは仮説が支持される確率をいいます。



例えば100回サイコロをふっても5回しか予測がはずれないという意味です。最高小学校の校長はまたガハハと大笑いするでしょう。先程出てきた標準偏差という平均得点からのズレ、そのズレを検定する平均値の差の検定、耳慣れないコトバでしょうが、平均値のマジックに惑わされないためには、このようなスキルを身につける必要があります。



心理・統計的な考え方は決して特別なものではありません。私たちが日常的に使っている思考そのものです。この心理・統計的な領域では複雑な数式が頻繁に出てきますが、どうか苦手意識を持たずに種々の心理・統計的技法に触れてください。数学的思考は専門家に任せればいいのです。


文化系の人は各種の心理・統計的技法の処理手続きや概念を的確に理解できていれば何も問題ありません。ここでは教育場面で応用できる基礎的な心理・統計的な知識を楽しみながら自発的に修得してもらいたいと考えています。


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